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コラム

鹿尾菜

今朝通信 第60号
『汽笛一聲…上機嫌』
すき焼今朝 五代目当主

新橋「今朝」とは線路を挟んだ向こう側、新橋五丁目の柳通りに区立塩釜公園が在り、その横奥に小さな祠を構えた鹽竃神社が鎮座して居ます。

この神社は、一六九五(元禄八)年に、現在の東新橋(「今朝」側)に在った伊達家上屋敷内に祀られていたものが、一八五六(安政三)年に移転され、邸内社として祀られたものです。陸奥国、一宮鹽竃大明神(宮城県塩竈市)がこの本祠で、毎年七月四日~六日の間、「藻塩焼神事(モシオヤキシンジ)」が執り行われて居ます。

これは古代製塩法のひとつで、塩焼竈の上に竹で編んだ棚を置き、藻刈により刈り取って来た馬尾藻(ホンダワラ)を積み重ねて、その上から海水を注ぎ、竈の中に濃縮した海水(鹹水:カンスイ)を蓄え、時間をかけて煮詰めると云うものです。海藻は畑の肥料(カリウム)としても利用されましたが、食用としても古くから日本人に親しまれ、貝塚からも発見されています。

既に『大宝律令』(七〇一)には貢納品として、三十種類の海藻が挙げられています。

そして、『伊勢物語』第三段には在原業平が二条の后に、当時の都では非常に貴重であった「ひじき藻」を贈る際に、「思ひあらば葎の宿に寝もしなん ひじきものには袖をしつつも」 と歌を詠んでいます。もし貴方に私を思う気持ちがあるのなら、雑草の生い茂るあばら屋でも一緒に寝ましょう。譬えきちんとした引敷物がなくても、袖を敷きながらでも、と海藻の「鹿尾菜(ヒジキ)藻」と夜具の「引敷物」を掛けています。

鹿尾菜は北海道日高地方以南の太平洋岸、瀬戸内海、兵庫県以西の日本海側、九州沿岸、南西諸島(奄美大島、沖縄)に分布する日本近海が特産の海藻です。現在国内で流通しているひじきの内、約八割は韓国、中国産で、約二割だけが国内産となっています。国産はほぼ十割が天然ものですが、輸入物は逆に殆どが養殖です。

鹿尾菜は波の荒い外海の岩礁上、低潮線付近に帯状に生育し、馬尾藻科、鹿尾菜属に分類されます。

雄雌それぞれが違った株で育ち、雌雄異株の海藻で、雌株で育った卵に、雄株で育った精子が受精し、受精卵となります。受精卵は 水温が高くなる五月から七月頃まで続き、やがて岩に付着して、生長を始めます。食用には更に三年必要となり、葉が芽生える九月から十月上旬が旬と言われますが、まだ小さくて採取するのに苦労するそうです。それ故、初春に収穫の最盛期を迎え、寒さが厳しいほど、風味が増すと云われています。収穫は潮が引いた際に、岩の上に現れた鹿尾菜の根を傷めないように、鎌で根元から刈り取ります。

見た目が黒く、鹿の短い尾に似ているから漢字では、「鹿尾菜」と書く、と人見必大『本朝食鑑』(一六九七)に記されています。

また、『料理早指南』(一八〇一)には、江戸時代の花見弁当の記載「花見の提重詰」に、上の部に「長鹿尾菜」を入れることが描かれています。

この長鹿尾菜とは、鹿尾菜の細長い円柱形をした茎の部分のみを切り取ったもので、歯応えがあります。それに対し、紡錘形の芽の先の部分は「芽鹿尾菜」と呼ばれ、口当たりもよい食感です。

収穫しただけの鹿尾菜は渋味も強く、干したところで硬くて食べられません。刈り取った後、水洗い後、素干ししてから、真水を加え、鉄釜で長時間蒸し煮にし、天日干しにして初めて「乾燥鹿尾菜」になります。

これを、たっぷりの水で振り洗いし、砂や汚れを落とし、それから五~十五分程度水に浸けて戻しますが、水浴性の食物繊維アルギン酸を多く含んでいますから、戻し過ぎに注意しましょう。

鹿尾菜は、油と相性がよく、煮付けだけでなく、炒め物、揚げ物など幅広い調理法で楽しめます。例えば、ボールに水気を切った豆腐、戻したひじき、鶏挽肉、人参、片栗粉大さじ一杯半と塩少々を入れてよく混ぜ合わせ、揚げ油を熱し、スプーンですくって落とし入れ、狐色になるまで揚げますと、即席雁擬きの完成です。

その他、鹿尾菜ご飯やサラダ、酢の物、天麩羅などにもアクセントとして利用されています。

最近の精製した粉から作られる蒟蒻が白いため、わざわざ鹿尾藻を入れて色付けしているものが多く見受けられます。

鹿尾菜は、食物繊維、中でもアルギン酸を多く含み、カルシウム、カリウム、鉄などの無機質を豊富に含んでいます。アルカリ性食品としての価値も高いばかりか、微量に含まれるフコキサンチンは脂肪燃焼効果があることが解明されており、今後、その利用に期待がもたれています。

乾燥鹿尾菜は一年中手に入りますから、気楽に使いたいものです。

二〇一四年夏号