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コラム

かき氷

今朝通信 第63号
『汽笛一聲…上機嫌』
すき焼今朝 五代目当主

昔はお祭や縁日で、原色のシロップの掛かった「かき氷」が美味しそうに見えました。今ならコンビニで、出来合いのカップ入りの砕いた氷とシロップの混ぜ合ったものや棒状の氷菓子が便利かも知れません。しかし、夏の風物詩となると、シャキシャキと削られたかき氷の方が風情があります。

氷を細かく削りシロップを掛けたものを東京方言で「ぶっ欠き氷」と言い、それが縮まって「かき氷」になったと言われています。その他、「みぞれ」「氷水」と呼ばれ、季語としては「夏氷」、関西では「かち割り氷」とも呼ばれ、甲子園球場の名物「かち割り」は氷を細かく割り砕いたものです。

私が子供の頃は赤い苺風味か、緑のメロン風味のシロップしかありませんでしたが、今は黄色いレモン風味やオレンジ色のマンゴ風味、青色のブルーハワイなど、バラエティに富んでいます。

戦前には砂糖を掛けただけの「雪」、砂糖蜜を掛けた「みぞれ」、小倉餡を載せた「金時」の三種が主流でした。

現在の甘味屋では小倉餡を載せた「氷小豆」、抹茶に砂糖と水を加えたシロップに小倉餡を足した「宇治金時」、または「練乳掛け」も人気があります。

洋食屋や昔乍らの喫茶店では、かき氷とは呼ばずフランス語風に「フラッペ」と呼ばれ、アイスクリームや果物がたくさん載せられます。元々のFrappe は、「冷やした」と云う意味で、果汁を凍らせたものや、細かく砕かれた氷にリキュールを掛けたものを指します。

歴史を紐解くと、「(ケツ)()にあまづら入れて、新しき金鋺(かなまり)に入れたる」と清少納言は『枕草子』第四十二段「あてなるもの」の中で、上品なもののひとつにかき氷を挙げています。甘葛(アマヅラ)とは蔦ないし甘茶蔓(アマチヤヅル)の茎を伐採して三〇センチ程度に切り分け、片方から息を吹き込んで中の樹液を集めて、煮詰めたシロップのことです。安土桃山時代に砂糖の輸入量が増えてから次第に姿を消した甘味料です。それを金属の器で頂くのですから、氷だけでもなかなか手に入らない上、小刀で削るかき氷は更に貴重な食べ物として、ほんの一部の平安貴族しか口にできませんでした。

西洋に目を向けると、古代ローマ皇帝ネロ(在位五四~六八年)はアルプス山中の雪をローマまで運ばせて保存し、果汁や蜂蜜を混ぜて愛飲したと伝えられています。九世紀頃に原型ができたと云われるアラビアの『千夜一夜物語』には冷たい飲物「シャルバート」が度々出て来ますが、これはアラビア語の「飲む」を意味するシャリバから派生した動詞で、シャーベットの語源になったと云われています。

十四世紀初頭に纏められたマルコ・ポーロの『東方見聞録』の中には、「北京で乳を凍らせたアイスミルクを味わい、その製法をイタリアに持ち帰った」と記されており、ヴェネツィアで評判になりました。その氷菓がイタリア全土に広がり、更にカトリーヌ・ド・メディチがフランス王アンリ二世(在位一五四七~一五五九年)と結婚すると、婚礼の宴でメディチ家の菓子職人がシャーベットを出し、フランス貴族は感嘆し、瞬く間にフランスに広がったと云われています。

日本の庶民がかき氷を口にするのは明治を待たねばなりません。一八六九年に横浜の馬車道に最初の氷屋が開店し、七一年には、後に東京に屠畜場を造る中川嘉兵衛が五稜郭外堀で生産した天然氷「函館氷」を関東に持ち込むと、それまでの輸入氷よりも安くて質がよいと評判になっています。そして、今朝が創業した三年後の一八八三年に、東京製氷株式会社が本格的に人造氷を製造を始めると、かき氷は一般的になりました。

お雇い外国人エドワード・モースも日本で食べたと日記に書いていますが、どうやらこれがアメリカに渡りshaved ice(剃り氷)となったようです。

鰹節削りにヒントを得た村上半三郎が一八八七年に「氷削機」を考案。鉋の上で氷を滑らせて削り、落ちて来たものをすくう方式が定着し、昭和になると鉋状の刃の付いた台座の上で氷の塊が回転して氷を削るようになり、ハンドルを手で回すものから、戦後には電動に変わりましたが、基本動作は同じです。今ではこの氷が薄い切れ状のものとは別に、粉雪のように細かい粒子のかき氷も現れ、人気を二分しています。

家庭用にも手回しハンドルの付いたかき氷器が出回りましたが、冷蔵庫で作るキューブアイスよりもやはり氷の塊から作るかき氷の方が美味しいですね。

最近では重さ一貫(約三・七キロ)の氷を売る氷商も減って来てはいますが、富士山や秩父の天然氷のかき氷を食べさせるところは依然として残っています。

また、伊勢神宮のおかげ横丁では、赤福の餡と餅が氷の中に忍ばせてあって、抹茶シロップの掛かった「赤福氷」に人気が集中しています。

勿論、食べ過ぎはいけませんが、酷暑の中、たまには「かき氷」もいいものです。

二〇一六年夏号