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コラム

土筆

今朝通信 第64号
『汽笛一聲…上機嫌』
すき焼今朝 五代目当主

春になるとあちこちで山菜が芽を出します。大地の栄養を吸った少し苦い成分が身体にとてもよいと云われています。日当たりのよい土手や原っぱ、畑の畦道でよく見掛けた「土筆(ツクシ)」も春の風物詩のひとつでしょう。「土筆誰の子、杉菜の子」と歌いながら、土筆摘みをした記憶があります。

土筆は(ダ) 羊(シ) 歯の一種で成長すると杉の葉が縦に連なったような形の緑色をした杉菜(スギナ)になりますが、こちらを食すことはありません。正確には、羊歯植物門砥草(トクサ)綱砥草目砥草科砥草属に分類されます。秋には枯れてしまいますが、地下茎は生きていますので、採っても採っても生えてくる雑草の一種と云えるかも知れません。

羊歯類は花を咲かせずに胞子で増えていきます。ですので、杉菜も春になると地下茎から胞子茎(ホウシケイ)を出します。これが土筆の正体です。一日に一センチくらいはぐんぐん伸びます。薄茶色ご存知の通り、羊歯植物は凡その軸に、少し濃いめの茶色をした三億年前に水辺に繁栄して大森林葉がぐるりと巻き、これを通常「袴をつくり、巨大な昆虫が飛び回っ(ハカマ)」と呼びます。高さは凡そ二十センチくらいでしょうか。

山菜として頂く場合は、先端部分の胞子嚢穂(ホウシノウスイ)が胞子を撒き散らす前のものを折り採って、袴を外し、茹でてお浸し、和へ物、酢の物、汁の実、佃煮、パスタの具などにします。灰汁が出ますから、灰汁抜きが必要です。それから、出汁で柔らかく煮るとよいでしょう。

三億年前に水辺に繁栄して大森林をつくり、巨大な昆虫が飛び回っていたと、化石から推測されています。そして、その頃の羊歯の中には高さが三十メートルを超えるものも見付かっており、それらが現在、石炭となっているのです。

その流れを汲む土筆が、いつ頃から日本に生えていたのか全くわかりませんが、「土筆」は大昔は「つくづくし」と読まれました。『万葉集』の大伴家持の歌に「片オオトモノヤカモチ山のしづが畠に生ひにけり杉菜コモリまじりの土筆かな」があります。ツクヅクシ土の中から、次々に生えてくる樣から、つくづくしと呼ばれたのでしょうか。そして、この「つくづくし」が縮まって、今の「つくし」になったようです。

土筆の袴のところを抜いて、それを元通りに挿して「つくつくぼうし、つくぼうし、どこに継いだか、当ててみろ?」と童歌にあるワラベように、丈夫な土筆の茎は一寸継いだくらいではなかなか見分けられないものです。

杉菜の傍に付くようにして生えるから「付く子」、袴の部分で継いでいるように見えるから「継ぐ子」とも呼ばれました。そして、地方により「継ぎ草」「つぎつぎ坊主」「どこどこ坊主」「ほうし子」「土筆ん坊」などとも呼ばれています。

土から出て来たばかりの胞子茎は袴に覆われており、それが土の中に「筆」が現れたように見えるので、漢字では「土筆」の字が当てられたようです。

収穫したその日の内に下処理をして茹でてしまいましょう。冷蔵庫内で三日位は日持ちします。灰汁抜きして水気を切って、保存袋に入れれば冷凍もできます。

季節の味わいとして、茶碗蒸しの上にあしらったり、魚のポワレに添えたりしても美味しいものです。天麩羅にする場合は灰汁抜きせずに、袴を外して直ぐに衣を付けて揚げてください。

正岡子規は「つくづくし摘みて帰りぬ煮てや食はんひしほと酢とにひでてや食はん」と料理法まで歌にしています。この醤(ヒシホ) とは、食材を麹と塩によって醗酵させて出てくる液体のことを指しますので、この場合は醤油を意味するのでしょう。

正岡子規は土筆が余程好きなのか「赤羽根の堤(ツツミ) に生ふるつくづくづくし又来(コ) ん年も往きて摘まなん」の他、俳句でも「家を出でゝ土筆摘むのも何年目」「女ばかり土筆摘み居る野は浅し」「病床を三里離れて土筆取」などと沢山詠んでいます。身近な植物故に、様々な人が俳句にしていますが、小林一茶は「畠打や子が這ひ歩くつくし原」、高浜虚子(キョシ) は「妹よ来よここの土筆は摘まで置く」と詠っています。

さて、食べないと云っていた杉菜ですが、天日で干して煎じて飲むと、ビタミン豊富なお茶になり、利尿作用のある生薬「問荊(モンケイ)」としても使われています。

是非、土筆を見付けたら、持って帰って料理に挑戦してください。春の風味が味わえます。

二〇一六年春号